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癒しブームの背景にあるもの
〜テレビドラマに見た、ある無自覚な飢餓感〜

2003年10月



27年前、夢中で見続けたテレビドラマがある。不遇の元ホテルマンが、凡庸を決め込む従業員らとともに悪条件で廃墟同然となったホテルの再建を通じ再起するという物語である。刺激的なアクションもサスペンスも何もない。高原の小さなホテルを舞台に起こる人間の心模様を描いた、大人向けのドラマであったのだが、中学生の私の心をなぜか強く引き付けた。

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そのドラマがこの夏にリメイクされた。状況設定こそ27年前と同じであったが、キャストやストーリー、台詞は現代風にアレンジされ、別の物語となっていた。口の悪い人は「出来はB級作品」と評し、確かにやや生煮え的な表現や演出もあったように感じた。昨今にしては控えめな演出で、立ち回りや凝った伏線があるわけでもない。台詞にしてもメッセージ色が強いというわけでもない。八ヶ岳を背景に淡々と物語が進むだけである。
しかし、初回を見た日から次週放映を楽しみに待つ自分がいた。けしてノスタルジックな気分になったわけではない。だがどういうわけだか見終わる頃には涙目になってしまうのである。もともと涙腺が弱い上、歳のせい?とも思え、「これで感動してしまう自分はちょっと情けないかな」と思っていた。実際、番組としては、裏に話題作があったことも影響したのか視聴率は振るわず、先月、一話短縮で残念ながら放映終了となってしまった。

ところがだ。このドラマのWEBサイトにBBS(視聴者からの感想、意見が掲載された投稿ページ)があり、そこを覗いてみたところ「なんだかわからないけど何度見ても泣いてしまう」「癒される」という声が多数寄せられていた(放映終了後も多数投稿が続いている。ではあの低視聴率はいったい…?)。しかも投稿者は男女とも(前作を知らない)中学生から熟年まで、と幅広い。私だけではないんだ、と驚いたと同時に「でもなぜ?」という疑問が湧いてきた。
泣いてしまったという声が集まった台詞は例えばこのようなものだ。
「失敗した人間は、やり直すチャンスを与えてもらえないのか?」
「(「別にアタシの代わりなんていくらでもいるじゃないですか!」と言う従業員に向かって)いないよ!!・・なに言ってんだよ、君の代わりなんかいるわけ無いじゃないか、・・君が必要なんだよ!」
「ひとりも欠けちゃいけないよ、みんな仲間なんだから・・・」

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いずれも、なんてことはないコトバである。また「甘ったるい」と感じる人もいるだろう。しかし、実生活(職場、学校、家庭)を省みた時、このようなコトバを耳にすることがどれだけあるだろう。このドラマには実生活の中に無くて、でも本当は聴きたいコトバが随所に出てくる。感動したり、泣いてしまうのは、自分の中の無自覚な飢餓感(心)が、こういったコトバや表現に共鳴してしまったためではないのだろうか。では、この飢餓感は何だろう?
どの台詞にも共通した人間観がある。それは「肯定」という視点である。ドラマは、無自覚に抑えている「自己肯定」を刹那ではあるが満たしてくれる。そして嬉しくて涙が出てくる。つまり視聴者の反響は「自分の存在は是である」という実感を持ちにくい人が(私も含めて)今の世の中に相当数いること意味しているのではいないか。思えば、中学生の時の自分には、ひどい劣等感と自己否定の思い込みがあった。ドラマの世界に「肯定される自分」の姿を映して見ていたのかもしれない。

自己不信・否定は、自身に起因することもあろうが、昨今は不幸にも「他者からの否定」によって追い込まれてしまうことが多いように思える。「否定のための否定(悪者捜し)」という否定の自己目的化も起きる。世の中に「否定(○○○はダメだ)」という悲観のベクトルが蔓延している。時代が変わる節目において、こういった社会病理は避けがたいことなのかもしれない。このドラマのような「癒し」を欲する声は、単なる肉体的、精神的疲労感ではなく、そういった背景が生んでいるのではないかと思うのだ。
最近読んだ本(※)にこんな一節があった。『クリスマスの朝、目を覚ますや否や大急ぎでプレゼント開けに行く二人の子供の話がある。一人は部屋いっぱいのおもちゃをもらうが、欲しかったものがないといって泣き出してしまう。もうひとりは部屋いっぱいのフンを見つけるが、彼は何も言わずにフンの山を掘りはじめる。なぜ掘っているのかを聞かれると、彼はこう答える。「だってこれだけのフンがあるってことは、この中のどこかにポニー(子馬)がいるはずでしょ?」』

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ここはフンの山だ!、と誰彼なく言う。しかし、フンの山をフンだと、ただ嘆き非難しても何も始まらない。フンの山を見て嘆くか、宝が埋まった山と見るか…。いまのあなたは、そしてあなたの周囲はどちらだろう?

※「こうすれば組織は変えられる!」2002年 フォレスト出版刊 P125〜126

菊水電子工業株式会社 ウェブマスター
藤川 貴記 webmaster@kikusui.co.jp

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