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今のあなたに必要なこと
〜情報のゴミ屋敷にならないために〜

2016年9月




現代人、特に日本人は非常に忙しい。
それは睡眠時間の減少という出来から見てとれる。

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日本人の睡眠時間は、この半世紀で緩やかに減ってきた。
NHKの国民生活時間調査(2010年)では、平日の睡眠時間は7時間14分。
40~50代は6時間台と最も短い。調査方法が違うため単純には比較できないが、
調査を始めた1960年より1時間ほど減っている。
これは世界の中でも短い。
経済協力開発機構(OECD)の調査(09年)では、
日本人の1日の平均睡眠時間は7時間50分。
1位のフランスより1時間も少なく、18カ国中、韓国に次いで2番目に短かった。

出典:朝日新聞デジタル「[睡眠の重要性]眠らない日本人」2016年9月11日
http://globe.asahi.com/feature/110821/03_1.html
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これを勤勉という国民性のなせる所業と見るか、
資本主義経済に翻弄されている姿と見るか。
睡眠時間の減少は、健康を損ねる原因になることは言うまでもないが
それ以上に、創造性という面において決定的な間違いであるらしい。

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「できる人はダラダラ上手〜アイディアを生む脳のオートパイロット機能」
(アンドリュー・スマート著 草思社刊)

著者はスウェーデン出身の神経科学研究者である。
氏のユニークなところは、
人が何もしていない(外部に意識が向いていない)時に
脳内に生じる自発的活動(ノイズ)に着目したところである。

多くの神経科学の研究者の関心は「活動中の脳」にある。
なので、安静時の脳内に生じる自発的活動は
長い間「ノイズ(意味のないもの)」として扱われてきたという。

「私たちは脳のわずか10%しか使っていない」という言説がある。
しかし氏によればそれは間違いで、脳は私たちの知らない方法で
きちんと100%働いている。
そして人間の活動、それは脳の活動と言ってもいいわけだが
現代社会で起きているざまざまな不都合は、
誤った脳の理解、つまり意識的に制御できる「10%」で
全てを片付けようとしていることがその端緒ではないかと。

同書の中で私が気になった見出しはこうだ。

XとYの座標軸を思いついた時、デカルトはごろ寝をしていた
脳を安静にする時間が長い人ほど"ひらめきの時間"の瞬間も多くなる
瞬間的な対応に追われすぎると、画期的な着想を得る時間がなくなる
人間の脳はマルチタスクに対応していない
マルチタスクができる人ほど注意力が散漫になる
クロマニヨン人は暇だったから創造的破壊を起こせた
複雑な脳のネットワークは休むことで血流が増え、活性化する
知的作業中に活動が低下する脳内のデフォルトモードネットワーク
脳を空っぽにすると動き出す脳のオートパイロット機能
自分自身のことを知りたいならば、時間管理はやめよう
仕事中毒とは、何もしないことに耐えられず、感情から逃げる人
ぼんやりする時間を奪われる現代っ子たち
子供たちは外的刺激にさらされ過ぎて内省する時間がない
フラットな組織ほど知らぬ間に働きすぎる
時間管理は自然の仕組みを抑圧している
知覚を研ぎ澄ましてくれるノイズと確率共鳴
社会が注意欠陥多動児を増やしている
企業にとってシックスシグマは、脳の発作のようなもの
シックスシグマでイノベーションが停滞した3M

など。

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同書のキーワードは
「デフォルトモードネットワーク」
「脳のオートパイロット機能」だ。

「デフォルトモードネットワーク」とは、
何もしていない(寝ている、ぼんやりしている)時に
活発化する脳内のネットワークを指す。
実は意識的な活動中の脳よりも、
デフォルトモードネットワークの方が
より多くのエネルギーを消費することがわかってきている。

安静時の脳は、活動中にわたしたちが、
見たり聞いたり考えたりしたことを整理・取捨選択・統合するなどしている。
この時、必要に応じて記憶(海馬への格納)とともに
新しい関連付けや解釈、つまり「ひらめき」が生じるのである。
脳はこれを、あなたの意志とは無関係におこなっている
自発的な活動なのである。
氏はこれを「脳のオートパイロット機能」と言っている。

「脳のオートパイロット機能」が上手く機能しないとどうなるのか。
そのひとつが、昨今話題に登ることが多い
「ADHD(注意欠陥多動性障害)」であろうと。
ADHDはデフォルトモードネットワークが弱いまたは過剰に活動するため、
外部からの刺激に対する反応が健常者と比較して極端、
ないしは安静時も過剰な脳活動によって、
次々と湧き上がる情動が表に出てしまう。

実は昔から、先天的にこういった特徴を持つ人はいた。
しかし、行き過ぎと思われるほど
高度に情報化している現代においては
(特にインターネットは拍車をかけているだろう)
外部刺激への反応を否応なく求め続けられる。
そのことが情報を遮断し内省する時間
(デフォルトモードネットワークを育てること)を大幅に奪った結果
子どものみならず、大人のADHDを増やしている原因ではないかと。

日本でもちょっとしたことでキレる「いい大人」が
多くなったように感じるが、
それはこういった理由で、ADHD的になっているのかもしれない。

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また、デフォルトモードネットワークには「外的ノイズ」が不可欠である。
デフォルトモードネットワークは先に脳活動のノイズだと書いた。
この場合のノイズは「非線形」という意味であり
非線形システムであるデフォルトモードネットワークに
外的なノイズを加えると、より感度が増す(活発化する)という。
これを「確率共鳴」という。
「確率共鳴」によって生まれる最たる例がアートである。

同書にはオーストリアの詩人リルケの例が多く紹介されている。
リルケは何年も作品を生み出せない時があった。
あるとき訪れた、強風の吹く断崖の地を歩いていたとき
「風の咆哮の中から声を聞いた」と一気に
「 悲歌1番1連」という作品を書き上げたという。
彼の中で何年も蓄積した言葉のカオスに
強風という外的ノイズが加わったことで
「確率共鳴」が起きたのではないかと。
まるで小さなチリが結晶核となって雪になるように。

2003年1月に「創造力の女神に逢う方法」という記事を書いた。
そこでは創造性を高めるための
意識的な行為(笑う、歩くなど)を紹介していたが、
それ以上に革命的な方法が実はあったのだ。
それは「何もしない」、「寝る」だ。

「人事を尽くして天命を待つ」ということわざがあるが
まさにそのような感じか。
考えられることを考え尽くし、それでも答えが出ない時は
放っぽり出して寝てしまえと。
あとは自分の脳みそのオートパイロット機能を信じて待ってみる、と。

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先に「私たちは脳のわずか10%しか使っていない」と書いたが
これは使っていないのではなく、
残りの90%を使う方法を知らない、
または、知ったとしても(「休め」、「眠れ」だなんて・・・)
それを信じられないということだ。

まじめにあくせく「何かをする」ことで
解決しようとするほど
ますます深みに足を取られていくという皮肉。

情報をいくら集めても、
咀嚼して別の意味付けや解釈ができなければ
それはただ外部刺激に反応しているにすぎない。
いわば「情報のゴミ屋敷化」だ。
ゴミはどんなに集めてもゴミのまま。
それを再利用できるようにした時、初めて「資産」になる。

これをネットで読んでいること自体が矛盾な気もするが
これからの時代に必要なのは「繋がらない勇気」。
用事が済んだらさっさとパソコン、スマホのスイッチは切る。
で、ぼんやりする時間、寝る時間をきちんとを確保する。
今のあなたに必要なことは、その勇気と時間である。

あ、ただし先になんの行動も仕込みもせず、寝てしまったら
それはただの「怠け者」なので・・・。
その点はくれぐれもお間違いのないように。



菊水電子工業株式会社 ウェブマスター
藤川 貴記 webmaster@kikusui.co.jp

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ここに記されている内容は、ウェブマスター藤川の個人的な意見や感想です。
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